ラボで染め色テストをしよう。ということになり、前回ティルプールに行ってから、1週間しか経っていないのに、私はまたティルプールに戻ってきていました。いつもの夜行電車は朝の7時半着です。

「じゃあ、まずジム行こっか!」

ジム。。。。

そう、前回ティルプールに来た時から、なぜか毎朝ジム通いを誘われているのです。インドの工場は10時から開くところが多く、いつの間にか朝7〜10時はジムでワークアウトがお決まりになっていったのでした。どうでもいい話ですが、ビビくんはシックスパックをどうしても手に入れたいらしく、人間業とは思えないレベルの筋トレをいつも行っています。

ジムで気付いたのは、自分の体鍛えるなんて余裕のある人は、そうそう悪い人がいないこと。そして、そのジムが月料金で7000ルピー(日本円にはx1.7くらいです)なので、結構良い所得層の人が顧客。そして、縫製業の街なので、来るメンバーは縫製工場経営者などが多い、ということでした。印刷工場経営者のディパクくんも、毎回ここで会えます。他の経営者とも知り合いになれます。これは、、、通っておこうか。。。。ということで、ティルプールにいるとき、どんどん健康になっていく私なのでした。

今回は小さな布でですが、ラボで私はサティさんとテスト染めを繰り返しました。ブドウの皮を、高温染め、低温染めの差を比べたり、洗う洗剤のPhに寄る変化を調べたり。どうしても、ピンク色は色がくすんだり、変色してしまうのですが、これはいっそナチュラルな原材料の洗濯洗剤も作ってしまえば解決できる。。。が、そういうわけにもいかない(作れるけれど、そのものを手にする方は、その洗剤がないとダメ、というのはちょっと嫌だなと思ったのです。)

でも、毎回サティさんが、「次までに、これは解決しておくね!大丈夫。」と笑顔で言うことは、魔法のように次のときに、本当に解決策が用意されているので、なんだかだんだん楽しくなっていったのもこの頃なのでした。

今までの、暗いトンネルの中から出口がいつまで経っても見えない、のではなく、このままいけば、後このくらいでゴール、という予想が出来始めたのです。何度もなんどもバシルーラ(注;ドラゴンクエストというゲームに登場する、相手を吹き飛ばす呪文です)を喰らい、何度もスタート地点に戻されてきた今までとは、かなり違います。


ビビくんは、あのポコポコした模様のあるサンプル布をちゃんとプリントできるところがあるか試すために、今回数カ所の工場に連れて行ってくれました。

一つはお友達のスレスくん一家の経営するプリント工場。でもここでもナチュラルバインダー(色の定着液)の存在はわからず。おそらくナチュラルじゃない?と言われているという溶剤はありましたが、誰にもわからないし、メーカーさんに問い合わせても、明確な回答は得られないのです。

うーん。。。という顔をする私をビビくんが連れて行ってくれたのが、その町の印刷協会会長のいるお店。店内オフィスには、インクがずらっと並んでいます。

主にタミル語で会話を進めていた二人が、私にパソコンの画面を見せてきました。インクの事に関する何かのグループの報告が書いてあるページです。会長がボトル詰めされたインク2本を持ってきて言いました。

「このインクと、こっちのインク。2色を別々に使えば問題ない。だけど、2色を混ぜると発がん性のエアーが発生するという情報が共有されているんだ。ただし印刷業界の中だけで。」

インクは一般的なTシャツのプリントによく使われる会社のものでした。知らないって、怖い。。。ですよね。しかもこの情報、一般人に知られることもないんです。公表されないから。

どちらのインクも、発がん性云々なんて、どこにも記載されていないのです。それどころか『エコンフィデンス』なんて、環境に良さげな語句がラベルに印刷されています。

 

なんでも自作できたら、一番いいのだけど、、、
どうしても誰かの作った何かに頼る場合、本当にわけがわからない、絶対に絶対大丈夫か、わからないのです。それは、あれに似ています。

『直ちに問題はありません』たとえば、子供の頃、駄菓子屋さんで売っていた着色料たっぷりのお菓子。大人になった今、あの着色料は健康にとても悪くて、ガンの元でした。という論文を目にしました。ちょっとなら、大丈夫。という感じかもしれないけれど、例えばそんな体に実は危ない染料で染められた服、プリントされた服を何十年身につけたら、もしかしたら、肌荒れやアトピーの原因の一つはそれかもしれない。

私が、うーん。。。という顔をしていると、

「あのさ、叔父がティルプール1大きいプリント工場持っているんだ。何かわかるかもしれないから、よかったら行ってみる?」と、ビビくんが次の一歩を聞いてくれました。

ビビくん、相当いいやつだな。。。。こうも毎回車を出してくれて、親身になって動いてくれる人なんて、なかなか居ないですよね。この時点で、前金も、なんのオーダーも契約もしていないのに。私は二つ返事でOKし、そのまま叔父さんの工場へ向かったのでした。

叔父さんには、自己紹介をし、理念と求めているもの、特殊なマチエールのある布にプリントできるところを探しているが、ナチュラルな染料とバインダーでやりたいことなどを伝え、とりあえず工場内を案内してもらうことに。その頃にはもうかなり薄暗くなって居ましたが、まだまだ稼働している工場。輸出業、納期命ですものね。(納期守らないと、たいてい支払いが値引きされます。)


それにしても、何より驚いたのが、それぞれの機械の大きさ。見たこともないような巨大マシーンばかりです。布プレスも、プリント機も、ローラーも。

(上の写真は2枚で1つの機械です。長さ10メートル以上で大きい!)

一通り工場をまわると、叔父さんはオフィスでこう言いました。

「お前のために、必要なスタッフ、学生(研究者)を用意しよう。そしてお前の求めるものができるまで、実験を重ねよう。ただ、それには投資が必要だ。お前はいくら出す気があるのか。」

 

。。。。。

まだ、良心的な人だと思いました。この会話の前に、私の滞在しているホテルの名前を聞かれたのですが、その1泊の値段から、私にそんなお金がないことが簡単に見透かすことができただろうに、そこで追い返すわけでもなく、丁寧に工場内を紹介して、そして、この発言です。

叔父さんがスタッフに呼ばれ、少し席を外した時、ビビくんがそっと私に言いました。

「うちのラボでやればいいよ。刷りのテストだって、ディパクもスレスもいるし協力してくれる、染料はサティさんが作れる。バインダーも大丈夫だから。できるか結果もわからない最初からお金をかけるべきじゃないよ。」

それもそうね。というか、そうできるなら本当にありがたい

私は戻ってきた叔父さんに、丁重にお礼を伝え、他のダイレクターと話し合ってからまた連絡します。と意思決定を伝えずにその場を去ったのでした。

この時、まだマイクロバイオロジストのサティさんの能力を完全に把握出来ていなかった私は、直感と人柄で、ビビくんとサティさんに頼る方向にシフトして行ったのでした。

つづく